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随想  水無月

 

ホタル  梅雨明けを告げる雷が鳴り出し、盛夏を間近に控えたこの月を感じさせる風物と言えば、 目には 平家ボタル でしょうか。六月の初旬には飛び始める源氏ボタルよりも一回り小さく その名の由来を思い出させます。放つ光も源氏のそれよりも弱いのですが、料亭の演出では ないのですから、竹林に施すようなライトアップの強さはもちろん不要で、初夏の風情を 味わうには十分な瞬きといえます。それにしても平氏が源氏に負けたことが後世『蛍』の 名前にまで影響を残そうとは、清盛も義経もついぞ思わなかったことでしょう。


 一方、耳には断然…(ヒグラシ)です。あの 「カナカナカナ」(★2)という鳴き声は早朝も聞けますが、やはり日が落ち暑さが少し和らぐ夕暮れに耳にしたいものです。夜の帳(とばり)が迫る時間に漂うもの哀しさを味わうには最高のBGMです。昏にはボサノバ闇にはジャズと決めている小生も、この季節、「蜩」の音色だけは別格です。いかにも彼らがいるぞといった感じの雑木林で聞くのも好きなのですが、葦簾(よしず)を下ろした畳の部屋で涼んでいるとき、 少し遠くに「カナカナ…」と消え入りそうに聞こえるのがまたいいのです。近年はなかなか理想の状態で鑑賞するチャンスがないのが残念です。


クチナシ

 ところで、将棋盤の足が 梔子 (くちなし)の実の形をしていることはご存知でしょうか。 一重咲きの梔子の花は赤い実をつけるのですが、熟しても実が裂けない(口を割らない)ので、 この名が付いたそうです。 将棋盤の足 転じて「口出ししない」という意味で勝負事の世界では採用されて いるのですが、実や花の姿はそれほど美しいものではないと思います。むしろ街角の垣根に 梔子の花を見つけるとき、惹きつけられるのは、その甘い馥郁たる香りです。雨上がり、 この白い花弁を見つけたら、傍で思いっきり深呼吸をしてみることをお薦めします。


 富士の東、筑波の西なる坂東の地で、夏の訪れを知らせる味は色々あります。 中でも食卓の脇役ではありますが、けっこう捨てがたいのは「谷中生姜」でしょう。 谷中ショウガ できるだけ細いのを選ぶのがコツですそして、味噌を多めにつけてガブリ…これに尽きます。 酸味と苦味と渋味がわずかな時間差の内にのどの奥まで駆け巡ります。鮨屋のガリとも、おろし生姜とも、ましてやジンジャーエールとも違う(これも考えたら生姜汁ですよね)清涼感がけっこう幸せな 気分にさせてくれるのです。





(★1) 写真協力 : 宮内ホタル館

(★2) 蜩の音声ファイルの著作権は、税所 康正さんにあります.
      <日本セミの会会員>  ※ 無断転載・無断転用は禁止

     MP3ファイル(96.0KB)は、Media Playerで視聴できます.

(★3) 写真協力 : 「季節の花 300」  http://www.hana300.com





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